美術館の色温度
昨年末の名古屋ボストン美術館の浮世絵名品展で多用した「色温度変換フィルター」
簡単に言えばカラーフィルターを通して光色を変える事。
なぜ色温度を変更するのかと言うと、照明器具の光源がハロゲン電球の場合(色温度は3000K前後)、
一般的に電球色と言われているオレンジ色の光を作品に照射して見せています。
赤身が強いハロゲン光ですが、その光に含まれている光の波長成分は、太陽光のように全ての光の成分が含まれています。
これは作品の持つ本来の色味を出すことが可能な光源(赤色側のボリュームが多いですが)となり、美術館等で採用されている理由の一つです。
しかしながら、作品によっては照度を制限された場合、ハロゲン光を調光すると、色温度はもっと低く(赤く)なり、青や緑等の発色が著しく悪くなってします。
これを補う為に、色温度を高める光(ブルー系のフィルターを通したハロゲン光)を照射して、青や緑の発色を補っているのです。
そんな面倒くさい光源なんか使わなければ良いのにと言われてそうですが、先に述べたように、全ての光の成分が含まれて、色の再現性は抜群です。
そして、人間の優秀な目の機能は、ハロゲン光で照射したものを見ても、白いものは白い、と認識することが出来るのです。 カメラで言うホワイトバランスをとることが出来る為、その空間の中で上手く調整をしてくれるのです。(少なくとも蛍光灯だけの空間よりはハロゲンの発色の方が深い色みが表現できます。)
その為、外部から美術館に入った瞬間は赤っぽいな〜と感じても、2〜3分経つと感じなくなってしまいます。(もし室内に蛍光灯等の色温度の高い光が有ると、比較することでハロゲンは勿論赤っぽい光に見えます)
しかし、そのホワイトバランスの機能にも程度の問題が有ります。
調光された光を作品に当てたときの発色の差を、これまた十分に感じ取ることができてしまいます(人間の目の機能は優秀です)。その為に色温度変換フィルターの出番となるのです
実際の使い方はハロゲン光と、色温度フィルターを付けたハロゲン光をミックスして照射します。
絵の具で二色をバランスよく混ぜるのと同じで、感覚的には青くもなく赤くもない白色になるように調整します(もちろん照度制限内で)。
注意することは、周囲の環境と差が出ないようにすることです。白色系の壁紙の場合は色温度フィルターとのミックス光の方が白く見えてしまいます。事前に色温度フィルターを使うことがわかっている場合は背景色を最初から白色系以外に変更することが一番良いのですが・・・
実際には作品からはみ出した光が赤かったり青かったりしないように光のずれを無くすようにします。
作品の上部に漏れる光は特に注意が必要で、天井面に近い(光源に近い)為、強く目立った光になります。
作品の絵柄によって当て込むポイントが違いますから、見え方と、周囲に漏れる光の程度でその時々で判断する必要が有ります。
美術品に光を当てることの難しさを日々実感しますが、光の当て方や選び方で大きく見え方が変化致します。よりいっそう作品の意図に近い見え方を探すのがミュージアムライティングなのかもしれません。
美術館に行かれましたら、ちょっと上を見て光の出方を見るのも如何ですか?
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